2023年7月10日月曜日

人は何で生きるか -ウイルスと共生する with Virus-   【№89】

 梅雨空が拡がっています。この頃は所々で線状降水帯発生が発表されて、昔にも同様の気象状況はあったのでしょうが、近年は水害の頻度が多すぎますね。私の住む神戸は昭和13年に阪神大水害が発生しています。

以下Wikipedia引用;6月末に太平洋岸に形成された顕著な梅雨前線が7月3日に瀬戸内海を通過、3日の夕方から降り始めた激しい雨は4日夕刻に一時収まったが、5日午前1時から5日13時23分まで大豪雨となった。この3日間で降水量が最も多い時には60.8mm/h、総降水量は六甲山で616mm、市街地の神戸測候所(後の神戸海洋気象台・神戸地方気象台)でも461.8mmに及び、阪神間の広い地域で400mmを超えた。六甲山南麓(いわゆる甲南地域)には芦屋川、住吉川、石屋川など、急峻な山地から一気に海へと流れ下る川が多いため、各河川流域で決壊、浸水、更に土石流などの土砂災害が相次いだ。交通網・通信網も寸断され、都市機能は麻痺した。(中略)1938年は、例年に比べて大雨や集中豪雨が多く、それによる水害が全国各地で起きた。阪神大水害と同じ頃、関東地域でも同様の集中豪雨に見舞われ那珂川・桜川・利根川・江戸川・印旛沼と関東各地で決壊・氾濫・水害が発生し甚大な被害を齎した。また大水害からほぼ1か月後の7月28日~8月1日には同様の集中豪雨が四国から東海地域にかけて起こり徳島県の那賀川が決壊、8月末から9月頃には台風による水害被害も重なった。10月には、九州で「肝属地方風水害」も発生している。(以上引用)。
おそらく、当時概念がなかったのかもしれませんが、エルニーニョ現象が発生していた年だったのかもしれませんね。

 ところで地上では相変わらず各種感染症の嵐?(程ではないとの認識と思いますが)が絶えません。コロナ然り、それに修飾されたいろいろの飛沫感染症の流行がみられています。
これは人類が存続する限り続く現象でしょう。いわゆる細菌に関してはそれ自身増殖できるパーツを備えていますから、人類の英知は細菌の持っているパーツを攻撃できる武器(抗生物質)を創薬して来ることができました。しかしウイルスは細胞に寄生して初めて増殖を含めた生物活性がスイッチオンになるので、寄生細胞内でのウイルス増殖を抑える核酸代謝抑制を薬理とする一部の疾患(インフルエンザ、C型肝炎、ヘルペス群、HIV等)に抗ウイルス薬は限られています。抗ウイルス対策の基本は感染予防(軽症化)を期するワクチン接種が主流です。これは高度な生命体が有する免疫機構を利用して、ウイルスの全部(生ワクチン)あるいは部分(成分ワクチン)を生体内に接種し、それを異物認識させて抗体を産生させる手法です。原理は同じですが、抗コロナウイルスワクチンは画期的な手法をとっています。ご承知のように従来のウイルスのパーツ(全部あるいは成分で主としてたんぱく質あるいはペプタイド)ではなくウイルスが生命体の細胞にとりつく“食指”にあたるスパイク蛋白をターゲットにしています。しかも、コロナウイルスを人工的に増殖させてそのパーツを手に入れる(インフルエンザワクチン大量生成手法)のではなく、増殖するための根源であるウイルス核酸そのものの配列を人工的に造り出し、生体に接種する(mRNA)ワクチンなのです。生体の細胞はその核酸配列を細胞内に取り込み、コロナスパイク蛋白を自ら強制的に合成させられます。すると免疫系が、この蛋白“おかしいぞ!人生で今まで自らの体になかった異質蛋白だ”と判定し、初めて免疫系がこのスパイク蛋白に対する抗体を産生し始めるという仕掛けです。インフルエンザ同様コロナウイルスも変異を起こすので、ワクチンが限られたパーツを基としたワクチンであればウイルス変異への対応は自ずから狭量で無効となる可能性が高く、新規作成の必要が出てきます。インフルエンザワクチンと異なり、mRNAコロナワクチンは比較的速やかに生成可能とはいえリサーチと速やかな対応が求められるイタチごっこなのです。


 飛沫感染、エアロゾル感染、空気感染予防に対するには、One for All, All for One ワクチン集団接種が基本的考え方です。一方接触感染も基本は同様ですが、接触行為は個人的な行動様式が多分に含まれますので、個人の健康観が強く表れてくる疾患が対象となることがあります。それは性行為感染症で特に強調されますが、最近のワクチンにまつわる話題を提供しておきましょう。

 ウイルス感染により誘発されるがんで、ワクチン接種により世界中でそのがん発症予防効果が確認されているのがHPV=人パピローマウイルス感染に因る子宮頚がんです。日本では2013年に定期接種となりましたが、ワクチン接種後に「予防接種ストレス関連反応(Immunization Stress-Related Responnses:ISRR)」=2022年1月WHO=の発生が副反応=弊害としてマスコミに大きく取り上げられ、もともとワクチン行政に及び腰の日本の気風に後押しされて、ワクチン接種を厚労省は積極的に推さなくなり、日本ではほとんど忘れ去られたワクチンになってしまいました。その後10年経過して諸外国ではワクチン接種により頚がん発症率低下(スウェーデンでは約88%低下)のリポートが相次いで報告されるようになり、近年やっとワクチン接種を厚労省が勧めることとなりました。実際は2022年4月から2025年3月までの3年間は、1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女子を対象とした無料接種(キャッチアップ接種)が実施されています。HPVワクチンは3種類あり、子宮頚がんに特化した2価ワクチン(サーバリックス)、頚がん・肛門がん・尖圭コンジローマ対応の4価ワクチン(ガーダシル)、もっと広く低リスクのHPVも含めた9価ワクチン(シルガード)が全額公費の定期接種となっています。
HPVの型は約200種類でそのうち子宮頚がん、肛門がん、尖圭コンジロームに結び付きやすいハイリスクのタイプが知られており、それぞれのワクチンには価の数に相当する(ハイリスク)HPV型に対する抗体が得られるようになっています。感染予防の観点からは、性交渉を経験するであろう年齢の前に接種が望ましいとされています。
また定期接種の対象にはなっていませんが、肛門がんや尖圭コンジローマそして最近では中咽頭がんや舌がんの予防効果も期待されるため、男性も接種することで、社会全体の集団免疫力向上に効果があると期待されるワクチンなのです。

 最近、スザンヌ・オサリバン著高橋洋訳の「眠りつづける少女たち」-脳神経科医は<謎の病>を調査する旅に出た 2023/5 紀伊国屋書店 を読み始めました。人は何で生きるのか? 生物学的、心理学的、社会学的要素の組み合わせで思わぬ修飾を受けて現存しているのが現状でしょう。社会学的要素は等閑視されがちですが案外に疾病の表現型においては重要な位置づけにあると考えます。NBM(Narrative Based Medicine)はまさにこの領域に踏み込む手法だと思います。

 ではまたやってくる暑い夏をエンジョイできるタフネスを身に着けて頑張りましょう。

医公庵未翁


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