2014年10月31日金曜日

感染経路  -新興・再興感染症- 人類の闘いは続く 【No.52】

 朝晩が涼しくなり、庭の水遣りで蚊に刺されることがめっきり少なくなりました。日暮れが早くなり水遣りの時間を逸しがちですが、葉が萎びれることは土の浅いプランターを除きほとんどありません。つい最近読破したのがR.M.サポルスキー著「サルなりに思いだすことなど -神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々-」という本です。著者が1970年代から約20年に亘ってケニア~タンザニアの東アフリカをフィールドとして、ストレスホルモンの研究に従事していた頃のヒヒ社会のフィールド観察が詳しく述べられています。同時にヒヒとともに移りゆく当時激動のアフリカ社会の中で、彼の青壮年期の人間成長が語られています。予想外にというよりも彼のユニークかつ優しい眼(まなざし)を通してみたヒヒ社会のなんと人間的なのか。否。むしろ人間がヒヒ的(原始)とさえ錯覚する描写には共感を覚えます。人間は衣服を着ているとはいえ、やはり共通する遺伝子だからこそ創り上げた社会のどうにもならぬストレスから、悶々と自らの個性に悩みぬき生きて行かねばならない。旧約聖書から採られた名前のそれぞれのサルが、その表情までもが推し量れる個体として本の中で生き生きと活動しているのです。名前が日本語だったらもうヒヒはご近所に住んでいる人々のようにさえ思えるでしょう。むしろ登場する当時のアフリカの人々の卑屈な生き方に恥ずかしさを感じるぐらいです。この本を買おうと思ったのは日経サイエンスの書評でした。そして、40年前にEthiopiaアディスアベバの日本大使館で夕食をご一緒した京大霊長類研の方々のお話を思い出したからなのです。2等書記官のお宅でひげを生やした若い日本の研究員もEthiopiaの4000mアビシニア高地に住むゲラダヒヒのお話を熱く語っておられましたね~。

 さて、今や東アフリカの話から西アフリカに目を移さなければなりません。エボラ出血熱(1類感染症)のエピセンター(震源地)です。昨今は時々刻々変わっていく情報ですので、日本医師会のHPのURLを掲載しておきましょう。感染症は、【無知、手抜き・ずぼら、予期せぬ悪意無き人の行動】の穴を見ごとに看破して侵入してきます。予防策(水際作戦等)のマニュアルを策定し、周知しておくことは重要ですが、それは完ぺきではありません。周遊国の告知をしない等の人の行為、潜伏期の問題、そして不幸なことにインフルエンザ流行時期と重なると一般医療機関にアクセスしてくるエボラ感染者が皆無とは言い切れないでしょう、いやこれからは多いとさえ思われます。既に沖縄からの報告があります。「渡航者の全てが指定医療機関を受診するとは限らない」幸い発熱の原因はマラリアだったそうです。

 

 

 ノロウイルス(5類感染症)で経験したことですが、接触・経口感染といわれているノロウイルスでさえ、乾燥した吐物(下痢便)の舞い上がりによる遠隔区域(接触以上に距離の離れた)への感染が成立するのは、高齢者・乳幼児医療施設での施設内感染で経験をしてきています。少量で感染が成立し、毒力の強いウイルスでは、人の体液(吐瀉物等)が乾燥して、知識のある医療従事者でさえ通常の接触感染としてのみ対応していたのでは、上手の手から漏れる空気感染によるウイルス暴露が起こっているのではないかと思います。(私見とお断りしておきましょう)
幸い日本発の薬剤(ファビピラビル)が有効との報告があります。 非常に立派な「ウイルス性出血熱-診療の手引き-」が今年の3月30日に出版されています。合わせて医師会HPアクセス情報を掲載しておきましょう。
http://dl.med.or.jp/dl-med/kansen/ebola/ebola_guide.pdf
http://www.med.or.jp/jma/kansen/ebola/003340.html#005

 思うに、水際作戦ほど危うい消極的な対策は無いので、積極策としてはエピセンターを叩くこと。人類の英知をもって世界中が協力して西アフリカに、時には強圧を持って取り組まねばならないでしょう。医学・医療の提供のみならず金有り国もその国に今できることを、直ちに、実施してほしいものです。それこそ国連の全地球規模の(そして温暖化も)取り組み(ミッション)が今求められていると思います。

 

 蚊に刺されることが稀有になった秋の関西ですが、デング熱(4類感染症)が話題になりました。戦後南方からの帰還兵が持ち込んだことによるデング熱の国内感染流行がありました。今年の規模とは異なりますが、その意味では国内で感染したという点では新興感染症ではなく再興感染症となります。昨年日本の山梨県で蚊に刺された人がドイツに帰国後デング熱を発症した例がありましたが、兆し(デング熱ウイルスの日本国内侵入)だったのでしょう。関西では高槻、西宮で一過性にデング熱患者が発生しました。年毎にヒトスジシマカは東北をじわりじわりと北上しています。寒い冬と四季に富んだ日本とはいえ、温暖化により冬に蚊が死に絶えることのない暖かな水溜りの環境はいたるところに存在するようになっているのでしょう。来シーズンが注目です。

 さて感染症にはそれぞれの感染源に固有の感染ルートがあります。人から人への感染経路として 代表的なものは、接触感染(流行性角結膜炎、性行為感染症等)、飛沫感染(インフルエンザ等主にウイルス性呼吸器感染症)、空気感染(麻疹、水痘、結核等)があります。一方侵入口を考えると、経口感染、血液感染(輸血、注射による)、ベクター(昆虫等による刺傷)があります。標準予防策(全ての人は見掛け上の健康や疾病にかかわらず感染源になりうるとしてその直接接触、体液等の取り扱い行われる防護策;テレビ番組ER参照)に加えて、疾病が特定された場合それぞれの感染経路別予防策を実施するのが院内感染対策の基本となっています。

 感染症を恐れず、侮らず、マナーを守ることが我々のなすべき基本でしょう。

医公庵未翁 記



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