2012年9月5日水曜日

第7回 元気セミナー開催される ーがん検診の課題とこれからー 【No,35】

 24節気の処暑を過ぎて残暑のご挨拶となりますが、やがて白露ともなれば、残暑の言葉は虚ろに響くのみ。新しい節気の考え方あるいは適合する言葉を取り入れなければ絵空事の日本の歳時になっていくように思えます。折しも映画「天地明察」が9月15日に封切りになります。冲方丁氏の同名著書の映画化で、四代将軍家綱の御代に日本独自の太陰暦を作成しようという壮大な国家事業にまつわる物語です。マスコミュニケーションの発達した今、ごく一部の有志が篤い想いで国を考え、タスクフォースを立ち上げ、プロジェクトを完遂する事は不可能な、ある意味で不幸な時代になっているのでしょう。パブリックコメントと言う実はガス抜き、足切りの踏み絵を経て官僚的発想の(官僚が悪いということではありません)総花的、全面外交のプロジェクト実行は小市民的内容にとどまらざるを得ないでしょう。無難・多数決は、時代を画することはできません。 Noblesse oblige  民主主義の時代に見直されるべき心意気。暑さに思考は鈍ります。

 

 

 弊会は、先日8月24日(金曜日)恒例の第7回元気セミナーを新大阪メルパルクにて開催しました。ご存知のように、最近の我が国死因第1位はがん死です。大阪西クリニックでは年間約12000〜13000人の健診クライアントが来院されていますが、胃がん、肺がん、甲状腺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がんがそれぞれ年間1〜2例診断されています。稀に、リンパ腫や血液疾患がそれに加わります。企業の契約健診項目には差がありますのでクライアント全てが同じ検査を受けての実態ではありませんが、甲状腺(これは臨床経過が少し他の悪性新生物と異なります)を除き、部位別のがん死の傾向を実感する頻度でみられています。今回はお二人の専門の先生を御招きしてそれぞれ小1時間の講演を二題そして30分ディスカッションの場を設けました。

 

 

 最初の演者はこの8月1日より厚生労働省医薬食品局食品安全部国際食品室長に就任なさった鷲見学(すみまなぶ)先生(博士、MPH=Master of Public Health)に御願いしました。前職では、平成24年度から平成28年度までの5年間を対象として、我が国におけるがん対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、がん対策の基本的方向について定めるとともに、都道府県がん対策推進計画の基本となる【がん対策推進基本計画】を策定されました。この基本計画の詳細を解説いただき、我が国の現状に基づいたこれからの対策、特に検診においてどう取り組んで行くべきか、あるいはそれにまつわる問題点をご教示いただきました。 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan_keikaku.html
今回の計画には希少がん、小児がんにも焦点が当てられており、統合的に人の尊厳を考えた医療と福祉そして緩和ケア等の視点が十分に盛り込まれています。今や、がんは不治の病の宣告ではなく、早期発見・多岐にわたる治療法の選択にて、治癒あるいは長期共生の時代を迎えており、更に踏み込めば予防の21世紀がスタートしているがん時代の現状です。検診の立場からは慢性ウイルス肝炎(現在ではC型肝炎ウイルス=HCV保有者)を的確に診断し、治療のレールに乗せる。又生活習慣に依拠する発ガンリスクの低減化、最近実感するNAFLD/NASHクライアントへの情報提供とフォローアップ体制の確立、二次検診での肝繊維化マーカーの測定、積極的な禁煙指導(受動喫煙を含みます)等がすぐにでも実施可能な項目と考えられます。子宮頸癌に対するワクチン接種の啓発も必要でしょう。行政に呼応して一人一人の努力が求められているのだと実感できる切れ味鋭いプレゼンテーションの基調講演でした。
 もうお一方、私が府立母子医療センター勤務中から気になっていた大阪府がん登録のお仕事で、一つには私自身が統計と疫学に弱いということから注目と尊敬をしていた先生のご講演を頂くことが出来ました。現在大阪府立成人病センターがん予防情報センター長である、津熊秀明(つくまひであき)先生(博士、MS)です。先生のお話の骨子から少し飛躍して、いろいろの意味で、とてもアバウトな表現ですが、大阪府は公衆衛生の統計的都道府県順位は最下位ないしはブービーあたりの下位を低迷している地方の一つです。それと裏腹に、大阪府のがん登録に関しては日本のトップを走っているのです。当然演者お二人は学術的におつきあいが以前にあり、今回厚労省内のあまりに短期間の鷲見先生の異動に附いては残念の意を津熊先生は表されていました。さて、先生のお話を聞いて、改めて大阪府の大げさにいえば悲惨ながんの現状を思い知らされました。私が府の男女共同参画社会審議会の委員を務めている時からも、大阪府ってなんなんやろうとしばしば議論になった同じ地域・社会・経済因子があるのでしょうけれど、水や大気浮遊微粒子等の環境に加えて、健康管理になかなか手が回らない中小企業、ぼけと突っ込みの人間関係等ではぐらかし、健康施策に関しては疎い人文学的背景もなかなか是正されて行かないからなのでしょうか。

 

 

 大阪府のがん登録では、大阪市、堺市、東大阪市等政令指定都市間の行政枠による不都合はないのだそうです。大阪都構想と関連して少し気になるところではありますが、健康への取り組みは行政単位に縛られぬ精度と基準で実施していきたいものです。全国比較では、大阪府において特に肝、肺、胃の年齢調整死亡率が高いようです。大阪府の今後のがん対策の課題としては、早期診断を一層推進すべきではあるが、単なる検診の量的拡大ではなく、未受診者・ハイリスク者への重点勧奨を行うことと、医療資源を効率よく活用するためにも、がん医療の連携と集約化を一層推進することが重要であるとご指摘いただきました。


何でもかんでもお金をかけて検診項目を増やせば済む話ではありません。がん検診の適切な方法とその評価法の確立と云うエビデンスに基づいた検診のあり方を取り入れていかなければなりません。厚生会ならびにユーザーの皆様にとっても、これからの取り組みにとても重要なヒントを教えていただいた勉強会となりました。

実りの秋を迎えます。豊かな心の時間も少し得られていくのではないでしょうか。

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