2011年7月14日木曜日

夏が来れば思い出す ーウイルスも忘れてはいない暑い夏ー 【No,17】

夏空が拡がっています。55年前、ランニングシャツに短パンの小学生が夏休みの日中を走り回っていた頃の小笠原気団の群青色の空そして白い雲のコントラストが懐かしい。当時武庫郡本山村北畑大字保久良通りの夕餉の食卓には蛍やカブトムシが飛んで来ていたし、空には銀河がかかり、流れ星がけっして珍しくない澄んだ夜空がありました。確かに今も、青き空と雲の白さに夏を感じることはできますがもっと深く、もっと高くとつい望んでしまいます。私の水晶体や網膜の劣化も否定はできないかな。私の夏!

ならば、当時の夏の思い出を少し綴ってみましょう。舗装されていない道の尖った石に蹴躓いて手のひらを傷つけ、まずは沁みるオキシフルで消毒をして(それがカタラーゼの作用であり、遺伝的に酸素ができない個体があることを臨床遺伝学で学びました)その後デルマトール(次没食子酸ビスマス)の黄色い粉を塗り付けた祖母の治療。隣家のYさんの御爺さんは(我が家ではパパと彼のことを呼んでいました)早朝ふんどし姿でラジオ体操。彼が道端に植えた赤いカンナの背の高さと、花の鮮やか過ぎる赤い色そして自己主張する葉の姿形が子ども心に脅威でした。パパの末のお嬢さん“れいこちゃん“には本山第一小学校入学時登校のエスコートをしていただきました。夏のデザートといえば、祖父母、両親、私の5人家族ではスイカ1個買ってきて、石の重りを付けたネットに入れて井戸の底からちょっぴり浮かして半日つけておきます。一人宛てのボリュームはたっぷりあって、スプーンでトンネルを開けながら、最後に一番甘い真ん中を残す工夫をしていました。今もこの井戸水は健在で、水撒きに重宝しています。今の冷蔵庫の温度に比べたらとても生ぬるい温度だったと思いますが、扇風機、団扇そして蚊帳の時代においてはその冷たさは貴重だったのでしょう。そうそう、夏になると保久良神社の御旅所付近にある谷治商店から毎日氷の宅配がありました。我が家に木製の冷蔵庫があったのです。自転車の後ろに積んできた氷を大きな目の粗い鋸でカットして、かぎ棒にひっかけ家に運び入れてくれます。近くの清田鉱泉所で買うラムネを氷の上で 冷やしておくのが夏休みの楽しみの一つでした。
先日の月曜日には巡回健診で大阪市大理学部附属植物園(交野市私市)に行きました。杉本町の大学キャンパス田中記念館における健診(最終日)を午前中に終え、弊社のレントゲンバスに乗って生駒山西麓にある施設の現地健診に伺いました。少し早く着いたので、入り口近くの水生植物、ヌマスギのある外国産針葉樹園あたりを散策しました。かつて33年前アメリカ南部東海岸サウスカロライナのチャールストンに居る頃は郊外の沼沢地にヌマスギ(サイプレス)が生えていて、折れた気根を拾ってきて磨いたことがあります。週末の散策場所の一つでした。でも、ワニは居る、時には水面を蛇が横切り、大きなダニ(リケッチアという紅斑熱の病原体を持っていることがあります)がいるのも事実です。自然の捉え方が日本と違うなと当時思った事でした。世界遺産の管理の在り方も案外この根底の認識が異なるため今後トラブルが発生するように思います。さてさて、脱線しましたが、水生植物は各種のスイレン、オモダカ、ミソハギやコウホネが並べられており、蓮の花の見ごろが何本かありました。暑いけれど、市街地の不快な暑さではなく、子どもの頃の快適な夏の暑さを肌に感じられたのです。20数名の最後に健診に来られた方が「都市と森の共生をめざす研究会」代表の植松千代美先生で、植物園2011年夏のイベントへのお誘いと研究会のパンフレットを頂きました。なかでも、9月2日と3日【夜間特別開演 夜咲き熱帯スイレンの観察】を強く勧められました。わくわくする内容ですね。その他にも小学生を対象のサマースクール、交野環境講座、熱帯植物観察会等が企画されています。健診でこんな出会いがあるのはうれしい限りです。帰りには子ども心に少々不気味だったあのカンナ(矮性)を3鉢(1鉢500円)で購入してしまいました。

 

 

http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/biol/botan/

 

 

夏型のウイルス感染が大阪で流行っています。手足口病、ヘルプアンギーナ。今年の手足口病は主にコクサッキーウイルスA6型だそうです。日本の手足口病は主にコクサッキーA16、エンテロ71ですが、このエンテロウイルスが心疾患等先天的な合併症を持った小児に感染すると重症化し時に血球貪食症候群などの致死的病態に至る事例を母子医療センターで経験しました。以前にも感染症のコラムで述べていますが、人の無知、油断、手抜きを見事に攻撃してくる感染症を決して侮ってはなりません。
また、大阪府公衆衛生研究所から5月末に伝染性紅斑と風疹の警告が出されています。伝染性紅斑はパルボウイルスB19が引き起こす感染症で、小児ではいわゆるりんご病といって頬っぺたが真っ赤になる症状で知られていますが、成人では関節痛が主症状です。このウイルスは短い周期で分裂を繰り返す組織に親和性が高く、白血球の減少がみられるとともに、溶血性貧血等赤血球の疾病を持つ方では貧血進行が重篤な合併症として出てくることがあります。また、妊娠初期から中期にかけての感染で、胎児が経胎盤感染すると胎児の活発な造血機能が破壊されて、重篤な胎児貧血を引き起こし胎児水腫から胎内死亡に至る事さえあります。私も胎児水腫の病因を妊婦血液抗体検査で診断したことがあります。子どもからうつったという親が少なくない昨今です。このウイルスは4~5年周期で流行し前回は2007年でした。ワクチンは今のところありません。妊婦がかかれば産科による注意深い胎児モニタリングが必須となります。大阪府内では3週間程前がピークだったようですが、さらなる警戒そして次回(2015年?)に備えて、情報共有をしていかなければならないでしょう。
風しんは今のところ警告にもかかわらず流行には至っていないようです。これも妊娠中に罹患すると先天性風疹症候群(難聴、白内障、心疾患)の児を出産する可能性があります。風疹ワクチンは生ワクチンなので接種すると軽く感染状態となるところから妊娠中接種は勧められていません。したがって妊婦家族がワクチン接種の対象者となります。また経産婦は上子の生活環境(保育等)からの感染機会が少なくないので回避する知恵と工夫、家族の協力が欠かせません。なによりも未感染妊婦の産後に積極的ワクチン接種を図ることが大切です。日本では風疹ワクチンは1977年から1993年まで女子中学生にのみ接種され(現年齢約30歳から約47歳、接種率約70%)、男性には接種されていません。2004年の「風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究」班における「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」においては、風疹に免疫のない、妊娠第20週以内の妊婦さん(妊婦さんは接種不適当者)と同居している家族 (妊婦の夫、子ども、50歳未満の同居家族)、医療従事者、保育所や学校等に勤務する者、10代後半~40代の女性、小、中、高、大学生等集団生活をして いる者等にワクチン接種が推奨されています。


暑い省エネの今年、懐古の心をちょっぴり以てがんばります。

0 件のコメント:

コメントを投稿