2011年6月8日水曜日

痛みの不思議、不思議な痛み ー陣痛とCRPSー 【No,15】

 梅雨入りして抜けるような晴天が久しく感じる今日この頃です。神戸ではアジサイが見ごろ。赤から青へ移り行く色合いは怪しげです。土壌のpHに影響される種類もあるようで、プランターに石灰を撒いてみたことがありますが、確かに赤色ばかりでアジサイの味わいが無かった経験があります。今年は自然色で、さつき以外に花枯れの庭にはあでやかな色どりを与えています。プランターに植えた山椒の木は今年蔭に置いていた所為か、アゲハチョウの産卵が無く、今でも若葉が出てきています。ちょっと情け心で幼虫を見逃してやるとあっという間に葉は丸坊主となり、無残に枯らす繰り返しの我が家です。アゲハチョウの三令幼虫までは山椒の幹の色と肌合いがそっくりというのは見事です。五令以降はむしろ葉の保護色でグリーンはつややか、正面からは両眼とも見えるロンパリの斑紋が愛嬌ですが、臭角は腋臭に似て、小生には忌避する臭いではないのが彼らにとっては残念です。しかしここまで大きくなるとついついもう少しで成虫だよと放置してしまい、山椒の木を枯らしてしまうのです。毛虫から三令までが慈悲もなく抹殺の勝負どころかな。

 娘に子どもが生まれて初孫の誕生は4月27日。1カ月の里帰りの後、帯を頂いた中山寺に御宮参りをして(当日は台風2号の豪雨下でした)5月末の日曜日に自宅に戻りました。出産は少し陣痛微弱でしたが、産科医による誘導後は比較的短時間で産むことが出来ました。私は27年勤めた府立母子保健総合医療センターでケアーをしたハイリスク妊婦さんの出産に数多く立ち会いましたが、陣痛だけは神の与えた負荷とはいえ、女性にとっては少々残酷すぎる試練だと思います。カミサンと娘が話していますが、出産当時はもう嫌だと思う陣痛も、それで二人目を望まないかというと案外そうでもなく、「痛み」は【傷み】として残っていないようです。ソフロロジー、呼吸法など、痛みを逃す(痛いけれどそれを心の傷として感じさせない)工夫が助産学の原点なのでしょう。育児はつらいけれど、またにわかの論功を得られないけれど、育む行為の中に自らが見いだせる歓びを神様は忘れていなかったのでしょう。男性には経験できない陣痛と出産、母としてのフィジカル、メンタルな児とのアタッチメントは女性の尊厳そのものであり、誇りの一つと感じます。娘はカミサンの時折のマッサージ支援を受けながら完全母乳で子育て中です。

 一方で、痛みが【傷み】となり、つらい症状が続くことがあります。弊社は健診を専らとしていますが、健診には採血が付き物です。その中で採血行為に誘発される特異な偶発症があります。一般的にある種の外傷を基に各種神経症状、運動機能異常が誘発される現象をCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼びます。125年も前に報告されていながら、世の中での認知度はまだまだ低いようです。タイプⅠとタイプⅡがあり、タイプⅡは旧来カウザルギーと呼ばれていて、明らかな神経損傷を伴うものをいいます。採血でいえば、主に肘窩で行われるものですから、正中神経損傷の可能性が最も高いと言えるでしょう。しかし肘窩ではないあるいは肘窩であっても通常の採血に終わり明らかな神経損傷がないにもかかわらず、自律神経系の症状や疼痛が引き起こされる場合をタイプⅠと呼びます。われわれの経験では採血後数時間内に局所の疼痛(必ずしも穿刺部位とは限りませんが、ほとんどが同側です)、しびれ感(知覚異常)を感じ始めます。しばらくして自律神経系の反応でしょう、皮膚温~皮膚色の左右差、異痛(アロディニア=本来は痛くない刺激を痛みとして感じる)症~痛覚過敏症等の症状が出現してきます。  痛みは体のデフェンシブラインの最前線、斥侯役を担っています。一時疼痛を担うAδ線維(アイタッ)と二次疼痛(じんわり痛)を担うC線維が一次ニューロンとして脊髄に情報を伝え、二次ニューロンが脳の視床まで情報を伝達します。ここには複雑なシステムが構築されていて、本来は痛みを抑制したり、増幅したりして適切に対応しているはずなのですが、いずれのシステムもそうですが、時に痛みの悪循環現象が起こり、僅かな刺激が痛みを増強させてしまう、あるいは興奮した疼痛神経が他のネットワークにチョッカイを出して、自律神経系の反応を引き出す、少し単純すぎる記述ではありますがこの結果CRPSになると思われています。難病の線維筋痛症や、帯状疱疹後神経痛がこのメカニズムが関連していると考えられ始めています。脊髄における疼痛増幅物質の発見など、まだまだこれから疼痛に関する研究は続くようです。このことは治療法の開発につながります。期待しましょう。痛みには情動が絡んできます。抑制されていく陣痛と、増幅されて【傷となる】外傷性疼痛に対応するには、クライアントの痛みの経験、発生時の環境並びに慈愛に満ちたクライアントに対する理解と適切な対応が今後求められ続けるでしょう。健診の採血といえども、技術の研鑽とともに関係者全てが最新医学的知識の共有を図っていかなければならないと考えています。

http://www.geocities.jp/ababa55jp/mokuji.html
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/pain-classification.html


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