2011年2月17日木曜日

冬の東京往復 そして残照 【No,7】

 今年はラニーニャの影響で、日本海側の各地に大雪が降りました。霧島新燃え岳の噴火など、天変地異のみならず世情に閉そく感があり、粗雑さに満ちた空気が漂っているようです。1月末の週末には東京で第39回日本総合健診学会があり、弊社からは私と検査科の黒田君併せて2題の発表を行ってきました。私は【体内の酸化状態を数値化する算出方法の開発】、黒田君は【体重増加における動脈硬化関連項目の変動】です。前者は弊社職員経年健診バイオマーカーと自覚症状問診(HQCチェック)のデータ解析、後者は20歳代からの体重増加10kg超群とそうでない方々のバイオマーカーの差異からアディポネクチン、HOMA-Rの有意性を検討した内容です。
 往きの新幹線は伊吹・関ヶ原方面雪のため13分の遅れ、翌日の帰りは順調な走行でした。のぞみN700系は徐行時やや傾くものの特に揺れを感じなくなりました。友人にそのことを話しすると、新幹線開業時(昭和39年10月1日)の試乗会では浜松辺りでコップが倒れた経験があるとか。旅行は随分快適になっているのでしょう。往復とも富士山がよく見えました。帰りの天竜川あたりの時間帯。大学教養時代の一人旅で御前崎からの帰途、南アルプスに湧き上がった雲の残照を思い出しました。その形、色、凄さに身ぶるいしたのでした。その前年夏休みのリュックを背負っての木曽路一人旅が頭の中に蘇り48年前の反芻をした東京行でした。

 次回に引き続き、アーユルヴェーダ学会発表後抄録の紹介です。

 【胎内環境は未病の出発点】
 さて頭書に、出生体重をご存知ですかと書きました。この意味を考えてみます。巨大児の対極にあるのが未熟児(低出生体重児)です。近年の日本の平均出生体3006g、そして2500g未満で生まれる低出生体重時の比率は9.6%に達しています。10人に一人が低出生体重で生まれていると言っても過言ではありません。この原因については、・高齢初産・喫煙・栄養の関与が想定されています。やせ願望に基づく理にかなわぬダイエットや安直なファーストフードは決してこのことに無縁ではないでしょう。妊娠中の未病栄養学は単純に不足栄養素の所要量補充にとどまらず、妊娠週数に伴う動的(ダイナミック)でそして胎児にも思いを馳せた栄養学でなければなりません。すなわち胎盤の血流確保とともに、胎盤機能を基とした母体、胎児の各種栄養素の代謝を学問の基盤としなければなりません。これは以下の事実から、今後重要な未病の課題となるでしょう。
 習慣流死産を繰り返す不育症の胎盤には血栓や梗塞、フィブリン沈着等が病理学的に証明され、自己免疫疾患での低出生体重児出産にステロイドや抗凝固療法を組み合わせる事で予後良好な妊娠結果を得られるようにもなりました。しかし一方で、母性内科の対象となるハイリスク妊娠は、出産という一見輝かしい結果を得られたとしても、ひょっとするとそれはプロを自負する医師(医療)の自己満足であって、分娩後に迄継続する母性内科医療の中で、育児不安等のメンタルヘルスや家族との不和に発展しかねない危険性を孕んでいる事に気づいていかざるを得ませんでした。
 低出生体重児の予後は決して安穏としたものではありません。周産期医療施設における26年の仕事の中で、血栓・梗塞というキーワードを基に、生活習慣病専門医療との接点が生まれました。昨今、国内外から低出生体重児(未熟児)の予後が報告されるようになってきました。高血圧、糖尿病、脂質異常症等の頻度は既に思春期で高いと認識されています。また、成人においても、疾病の罹病率、予後はその人の出生体重と相関している報告も相次いでいます。すなわち、生活習慣病胎児期起源説、更にあらゆるその人の健康の質は、母体栄養(胎内栄養、ひいては胎盤機能)と出生後早期(乳児期)栄養に依存しているという考え方が提唱され、またそれが実証されつつあります。
 一方過体重児もその予後は決して健全でないデータもでて来ています。数年前には成人病胎児期起源説が提唱され、米国の小児科学会で勧告が出されました。これらをまとめて今や「健康と疾病の発症素因は胎児期、乳児期ある」と考える妥当性が認知されるようになって来たのです。
 また、後方視的研究では、各種成人病において疫学調査を中心としてエントリーされた母集団を各人の出生体重別に見て行くと、明らかにその予後は低出生体重であった人が早く重症化し予後も不良で、また死亡率も高い事が分かってきました。さらに各個人において脂質、糖質代謝の重要な鍵を握る酵素活性の発現においても、出生体重との相関が見られる病因論的基礎データも蓄積されつつあります。改めて、皆様の出生時情報、御自身の母子健康手帳探しを行ってみられませんか。

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