2018年7月4日水曜日

大阪北部地震から二週間 -たこ壺・クラッシュ・エコノミー- 【No.76】

ビルの6階は一気に突き上げられ、ガタガタと短周期で揺れて、引出しが飛び出しましたが意外にも高いところの飾り物は落下せずに済みました。エレベーターに閉じ込められる人も無く、携帯は揺れの直後警告音が鳴ったところから、震源は近いと自宅(神戸)にすぐ電話をかけました。「怖かったけれど、被害は些少」との報告に安堵し、テレビで茨木・高槻方面が震源地との事で、身勝手なものでまずはホット職員全員無事を確認しました。当日は車で出勤していたので、阪神高速通行止も午後2時過ぎに解除となり、いつも通りのスムーズな退勤ができました。自宅に帰ると、半分ぐらいに減っていた酒瓶が1本落下してたまたま下にあった花器2個を割り、モノコック様の厚いガラス瓶は割れずに酒のロスはなし。その他トイレ内の小物少々が落ちていましたが、幸いガラス飛散は無く、平穏なわが家の小被害でした。ビルのエレベーターが1日半停止して翌日火曜日は階段で6階まで、クライアントの皆さま、血圧少し高めだったでしょうか?
それにしても、ブロック塀の犠牲者は無残です。専門家の危険構造物指摘の後で実施された非専門家のテストで良しとされ、それが罷り通る唖然とするインバーテッドな世界が教育委員会の甘さ、異常さを示す象徴的な事故だったのでしょう。犠牲はいつも子ども。言い逃れる方便を身につけるズルさが成長することであってはならない。
学ぶとは誠実を身に付けること。教えるとは夢を語る事。

さて我が家に戻って、寝床の位置を考えると、カミさんは下半身をタンスに押し潰されクラッシュシンドローム必須、我輩は右半身をモーツアルトCDラックにグシャグシャにされて、お爺ちゃん本望やったねと多少の慰みを遺族に与える環境であることが明らかになりました。早速、知恵を絞って家具の耐震対策を講じました。道具箱にあるいろいろの部品を使って意外にうまく倒れ防止施工、結構気に入っています。また短時間で配送されるアマゾンに酒瓶落下防止のアイデアを実現すべく小道具を発注し完成しました。見てください、大仰さ(サイズの間違った鎖を発注し、切るのにオオジョウしました)と軽便さの混じったイカにも素人っぽい仕掛け。効果の程はわかりませんがこれが試されることの無いことを祈念しています。

震災がらみで発症する病態二つのお話しです。最近の受診者に潰瘍性大腸炎で腸切除に至った患者さんが術前に自分の病気の経過を心配するあまり、たこつぼ心筋症にかかったことを告白されていました。たこつぼ心筋症とは突然発症する左心室心尖部の一過性収縮低下をきたす心疾患のことで、ストレスと非常に関連深い特異な病態で、新潟兼中越大地震で多発しているのが報告されて世に知られるようになりました。発見命名者は広島の佐藤光先生です。
www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph95.html
それに震災でもう一つ重要な疾患はエコノミークラス症候群です。震災に被災し避難生活が始まると、トイレに困るため水分摂取をひかえ同じ姿勢で長時間すごすため、股関節あたりの下腿大静脈に大きな血栓ができ、それが身体活動を開始したとたん肺に流れて肺梗塞を起こし、致命的になる病態です。これに関しては数年前に20歳後半の若いSE(システムエンジニア)で軽い半身不随の既往歴を知りました。納期の迫ったソフト開発の為に深夜まで座ったままに仕事をして水分摂取も少なく,帰宅しようと立ち上がった途端に不穏を感じて搬送され診断されたのだそうです。
某製薬会社のMRと話ししていて、最近糖尿病治療薬として脚光を浴び、多くの糖尿病患者さんが処方されている SGLT2阻害薬の震災時の問題点に気付きました。腎臓における糖再吸収を抑えるお薬ですが、それだけに多尿になりまた水分補給が重要です。
短期的には何時間も車内に閉じ込められた多尿をきたす薬剤服用の人びとは困ったのではありませんか? 過活動膀胱の人は我慢できたの? こんな報道も知りたいですね。切実な問題です。通勤電車の中で4時間立ちっぱなしだったという話も聞くと、これは看過できない治療留意点の一つと言えるでしょう。
 長期的には、水分を控えしかも強制的に腎からの糖排泄のため多尿になるとなればますます血液は濃縮せざるを得ない。血栓ができやすくなるのは必須。震災時にはより注意をしなければならない、薬剤情報提供が必要だという結論になりました。我慢せず震災時水分補給を十分行わなければなりません。

多くの受診者の方々に、多くの人生があります。疾病の背景を知り、それから学び、他の方々に疾病予防のヒントを提供することはとても重要と改めて感じている今日この頃です。

医公庵未翁 記



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