2015年4月7日火曜日

今年の花粉症はいかがでしたか? -神戸 竹中大工道具館から日本の森林を考える- 【No.56】

 今日は4月1日、新年度が始まりました。阪神間は桜が一両日で満開を迎えますが、お天気がいまひとつ冴えません。涙桜になるかもしれませんが、花見の宴は数が減りちょっと静かで落ち着いた春の幕開けとなるでしょう。通勤JR車窓から見える夙川公園は今日8分咲といったところでしょうか、特に樹冠が貧相で、咲いてはいますが花の妖艶さを伴ったボリューム感がまだ現れていません。桜としては甲陽園(上流)に行くほど見事で、踏み固められる土のせいで、年々木の勢いが無くなっていっている気がします。20年前神戸震災の翌年の桜はそれは見事でした。もっとも、当時の気分がそうさせていたのかもしれませんが。そんな今日この頃ようやくスギ花粉のピークは過ぎ去ったようで、今はヒノキ花粉が盛りとなってきました。昨シーズンのスギ花粉はひどかったですね。私はついに薬を飲まねば診療ができない経験をし、強く感作されてしまいました。多くの昨シーズンの受診者が薬変更を強いられたようで、おかげでクスリの強度を実感できました。もっともクスリの効き具合は個体差があることは事実です。一般的に今シーズンのスギ花粉症は従来のシーズン並みに戻ったようで、私の薬服用もそれほど深刻な内容にならずに済みました。治療においては、第二世代の抗ヒスタミン剤は眠たくならず、よく効くと思われます。症状によっては抗ロイコトリエン製剤やステロイドの局所投与製剤を組み合わせて治療しています。舌下脱感作療法は根気よく治療を続けなければならず、その継続性において真の有効性は数年後の判定となるでしょう。

 先週末に新神戸駅近くにある竹中大工道具館に行ってきました。この館は;消えてゆく大工道具を民族遺産として収集・保存し、さらに研究・展示を通じて後世に伝えていくことを目的に、1984年、神戸市中山手に設立されたのが日本で唯一の大工道具の博物館「竹中大工道具館」です。今日までに収集した資料は30,500 余点に上ります。古い時代の優れた道具を保存することはさることながら、「道具」を使いこなす「人」の技と知恵や心、そこから生まれる「建築」とそれを取り巻く木の文化について、様々な企画展や講演会、セミナー、出張授業、体験教室などのイベントを定期的に開催してきました。そして2014年秋。新神戸駅近くの竹中工務店ゆかりの地へと移転して、新たな一歩を踏み出して半年;以前旧館時代に訪れて館の職員(元大工さん)の方の篤い説明を聞いたことがありました。おりしも、企画展「木と共に生きる -木地屋 小椋榮一の仕事-」を開催しているので新館を初めて訪問しました。
http://www.dougukan.jp/

 お盆や椀の作品には栃、欅、櫻、櫟、槐、栗などそれぞれの木目が見事に描き出されていて、木地師の仕事ぶりに改めて感動を覚えました。欅の生真面目な文様に比して、橡(栃)の文様は怪しげなランダムさが魅力です。個人的には栓(せん)の素直な木目が好きで、やんちゃで、意外な面白さのある黒柿の風合いと色の出具合を好んでいます。これを機会に島根県の工房から購入した“ぐい飲み”見てください。どうですか、良いでしょう、酒がすすみます! 大工道具館では栓の卵型木形(カミサンは無難に否ロマンチックにサクラ)を買い、呆け防止効果を兼ねて診療の合間に掌でその感触を楽しんでいます。

 常設展は大工道具の数々が展示されていて、大工さんによる解説付き館内ツアーも実施されておりアトラクティブな内容になっています。加えて週末には各種イベントや木工教室、刃物砥ぎ教室もあるようです。今回も15分ほど展示道具の説明を聴く機会がありましたが、興味深かったのは鋸の変遷にまつわる話でした。振り下ろす動作で木を割る斧や木の表面を削る釿(手斧;ちょうな)そして槍鉋(やりがんな)は結構古い時代からの大工道具だったそうです。それからすると鋸の構造は案外複雑で、というのも道具は切れる事が心髄ですから、今の形が作られ役に立つ繊細な道具として定着するには多少の歴史的年数が必要となります(なるほど)。丸太ではなく平べったくて長い板を作るには木の長軸に沿って木を細長く裂いて(割って)行かなければなりません。この長軸に沿って一定の厚味で木を切るには目立ての利いた鋸を使いその精度と根気たるや昔は並大抵のことではなかったことが想像されます。一本の原木から製材して“板”を作る歩留まりは非常に低かったようです。今は製材所でウィ~ンとモーター音とともにあっという間に原木から板が作られていきます。興福寺や法隆寺の木組みを何気なく見ていましたが、同一サイズの板材を大量に調達するために使われた原木の膨大な無駄に改めて思いが至りました。調べてみると日本の森林史における第1期荒廃期は、平城京ならびに平安京遷都に伴う神社仏閣建設ラッシュに国中が沸いた西暦600~800年だそうです。畿内の森林のアクセス容易な場所の巨木はことごとく無くなったと想像されます。

1469年静岡は天竜犬居町秋葉神社、1501年奈良県吉野川上郡がわが国における針葉樹(杉)植林の最初の記録だそうです。爾来日本はスギ花粉症に悩まされる道を歩くことになるのですね。わが国の国土の66%、2508万haが森林で、人工林1029万ha/天然林1479万haの割合になっています。杉は森林の18%450万ha(人工林のなんと44%:そりゃ植えすぎやろ!)、ヒノキは10%260万haを占めており、国土面積の12%が杉(檜合わせて19%)で覆われていることになります。問題は近年日本は自国の森林資源を活用していないことで(年間伐採量0.53%)、戦後の造林で森林蓄積が増加しているにもかかわらず輸入材が70%を占めており、ますます伐採されない樹齢の程よい杉・檜が花粉を飛ばし続ける結果を招いていることになります。確かに近年スギ花粉の飛散量は増加の一途にあり、地球温暖化に合わせて、樹齢30年以上に成長したコントロールされない杉・檜の増加により、少なくともこのままでは、2050年まで飛散する花粉量は減る見込みがないそうです。スギ花粉症の有病率も1998年の16.2%から、2008年日本の総人口の26.5%に増加しています(馬場廣太郎、他;Progress in Medicine)。皆様来シーズン花粉症の対策はぜひ早めになさってくださいね。

おまけ 木偏の漢字 難解編です:梓、榎、楓、樺、櫟、欅、榊、樒、橡、楢、楡、榛、柊、樅、柚、木槿、檀、朴、榴、楮、櫨、槐、枳、椋、梧、棔、棕櫚、榧、黄蘗、椹。

木曽の五木;檜・さわら(椹)・こうやまき(槙)・ あすなろ(翌檜)・ねずこ(鼠子)
私、正調木曽節ちょっと歌えるのです。大学1年の夏リュックを背負っての木曽路一人旅。
木曽福島で商人宿に泊まり、盆踊りを数時間聴いて覚えました。
https://www.youtube.com/watch?v=jp7OPc7mTIo


 では ごきげんよう

医公庵未翁 記



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