2013年9月2日月曜日

第8回元気セミナー 「新型うつ」 夏目誠先生 【No,47】

 初夏から夏にかけて、風疹、手足口病とウイルスの大嵐・小嵐が吹いて、列島は熱中症の8月に飛び込みました。都会では舗装されていない地面を見つけるのが至難となり、なんだか鉄道の道床でのみ雨が土地に吸い込まれている、あとは小市民の戸建てのささやかな庭。雨は蔽われた人工表面を流れ急ぎ、溝から暗渠を経て近くの大河へと吐出され、タイムラグ(時間差もなく)川の水量は一気に上昇して危険水位に達します。治山治水が裏目に出ているようにさえ思えてしまう昨今です。ゲリラ降雨と称して雨の降り方に問題があるようですが、それを引き受けるには土地のゆとり(キャパ)が縮小しているのではないのかな。土の不感蒸泄のない都会では、雨後蒸し暑くなるばかりで室外機から吐き出される熱風がさらに不快さを増して、ゆとりのない身体を熱中症へと掻き立てている現状。皆様はいかが過ごされましたか。

 今年はほぼ10年ぶりでしょうか、お盆休みにカミサンと海外旅行に出かけました。ケチャが聴きたくてバリ島3泊5日、デンパサール近くのウルワツ寺院で本場の音楽(ケチャ)と踊り(サンヒャン)を見て来ました。そもそも日本で随分前に芸能山城組のCDで聞いてそのリズムの複雑さと巧妙さに興味を持っていましたが、幾組もの男性パートの演じるリズムと、リーダーの躍動する上半身と顔面の紅潮が印象的でした。この四群重ね合わせ(スパーインポーズ)で作り上げられる不思議な16ビートの構成そして揺れ動くリズムは、おそらく農耕民族ならではの【理不尽な集簇の不調和】を基にしたけっして狩猟民族ではなし得ないパフォーマンスと思います。土地の呪術的習俗舞踊を源流にしているとはいえ100年にも満たない歴史のケチャです。ヒンドゥー、植生としての森、カニクイ猿、村、気候風土の合作として世界に誇る音楽ジャンルでしょう。

 そうそう、バリ島ではあちらこちらに凧が揚がっています。朝から日暮れまでそして結構高くかなり大きめの凧が空に舞っています。昼休みにホテルの海岸で海風に乗って5m程度の高さで舟形の凧が移動して来ました。つい誘われて凧売りからそのカイトを買ってしまいました。4000円と吹っ掛けられましたが、1500円ではがんと譲ってくれず結局2500円で購入。今組立てて部屋に飾っています。帰国の日、朝から頭上高く揚っている凧が一基、風にラインが鳴っているようでしたが、ちょうど日暮れを前に凧が頭上を降りて来るのに遭遇しよく見ると二張の弦付の凧で、これがブンブン風に共鳴していたのでした。きっとカイトフライヤーの手にはラインに伝わるその振動が快感だったに違いありません。暇と言えば暇ともとれますが、一日中凧を揚げる豊かな時間がバリには流れていると考えることもできます。喧噪のバイク社会と少し違和感を覚える光景でした。日本の3人乗り自転車の比ではなく、たくましい母親にしがみつく子、両手に結構大きな壷の様な器を持って、夫の後ろにしがみつかずに跨がるだけで50km程度のスピードで走行する小母さんの内股の力には脱帽です。

 

 

追伸:Garudaは不動明王の迦楼羅(炎)に繋がります。

 さて、8月23日の金曜日には恒例となっている弊会第8回元気セミナーが新大阪メルパルクで開催されました。今回のテーマは「新型(現代)うつ」でお招きしたのは精神科医の夏目誠先生です。弊会営業マンが各ユーザー企業の皆様にお声がけをしましたが、申込のスピード・数ともに反応がよく、150名余の方々の参加を得ました。有り難うございます。これはこのテーマが喫緊の課題であることを示しているのでしょう。

 基調講演に引き続いてトークセッションが私の担当です。今までに集めていた資料を再度読み直し、今年7月に開かれた第10回日本うつ病学会の学会報告が業界紙に掲載されたのを基にして、果敢に夏目先生に挑戦してみました。産業医としてよりも内科医として、企業でいわゆる産業医として事例を見ているとこれは【鬱】ではない、百歩譲って「うつ状態」といえるかもしれないけれど、その様なうつ状態なら、誰でもが、そう、トークセッションが始まるまでのここ数日間の私さえもが当てはまる。これを「鬱は心のかぜひき」の企業宣伝に悪乗りして顧客を増やす絶好のチャンスとばかり反応した精神科領域に問題ありではないのだろうか。確かに鬱に対する偏見・差別の域値を下げて一般の理解と医療機関へのかかり易さを功とするけれども、一方で鬱と診断されて喜び、さぼれる、しんどさからの逃れを正当化する罪の部分も社会現象として見られているのではないか。これがトーク開始の夏目先生への投げかけでした。ちょっと過激だったかな。

 現代(新型)うつは新しい病態、病型あるいは疾患名ではなく、筑波大学社会精神保健学斎藤教授による、“社会に生きる若年世代の「非特異的な援助希求行動」として捉えるべき”現象と私は考えています。しかもその傾向は若年に限らず、企業では既に40~50歳の中間管理職にさえみられると実感するのです。むしろバブルがはじけて閉塞感に満ち満ちている日本の社会の抱える実態であって、家庭で支え合い、話し合い、社会での個の生き方を語る機会も少なく、そんな親を見て育っている若者に特にありきたりの風潮として浸透してきているのではないでしょうか。他罰(外罰)的であり、ボーダーとは言わないまでも自己愛に満ちていて(何せ少子化ですから)、即座に反応する親指姫時代(携帯操作を表する私の造語)における希薄で実態のないコミュニケーションは、むしろ孤立する恐怖の裏返し。日本の村八分、対人恐怖(症)(夏目先生に言わせると特に日本に多い症状なのだそうです)そのもののフェノコピー(表型模写)にしか過ぎないのではないでしょうか。

 いまさら滅私奉公、終身雇用を持ち出すほどの古さと頑なさは私にはないつもりです。そこで救いの精神科診断があります。適応障害です。結婚の多くがこれに耐えるという冗談はさておき、復職に対して1回は配置換えを試みてもいい、試みなければならないとの夏目先生のお話でした。私の元職場での看護職員対応でもこれが当てはまります。同じ施設内での(病棟)異動を試みますがやはり上手く収まる人とそうでない職員が出て来る。そうなると施設そのものを替えることも視野においてカウンセリングをしていかなければなりません。ハイリスクあるいは高度先進医療を扱う医療施設の看護現場は過酷です。タフな精神と体力そして仲間が必要です。看護師として失格ではなく、自分に適応する多様な医療現場をポジティブにハンティングすることが勧められます。これは決して負け犬ではない、自分探し、背負っている生い立ちの負荷からの真の自立をめざす過程でもあると考え看護職員へのアドバイスとしてきました。

 新型うつには薬物療法はまず効果がありません。精神科の先生にお願いです、カウンセリングをなおざりにして薬物療法どっぷりの診療で診断書だけ発行しないでください! 親身なカウンセリングそして中集団における自己啓発と育成の場の提供が必要なようです。企業の果たす役割も、休職・復職を繰り返す厄介者扱いではなく、またややもすればパワハラともなりかねない叱咤激励ではなく、すなわち「弱さの是正」ではない「適性を活かす」基本方針を守りつつ、同僚(コリーグ)としての育ちの場を提供する気構えでなければなりません。企業は安全配慮義務を順守しつつまた被雇用者も社会人として働く義務感を自覚し、それぞれに社会の構成員としての責任と自負を分かち合わなければならないでしょう。

 

 

 私がかつて大阪府の男女共同参画社会審議会委員として勉強した、これは広い意味でのダイバーシティー対応だと思います。

こうして内田樹【下流志向】を底流にした夏目先生とのトークセッションを無事終えることができました。【下流志向】は新型うつを理解するのには好適書です。教育から家庭の在り方にもヒントが得られます。最近は文庫本もあり私からも一読を勧めします。

 夏目先生の熱い思いと行動がひしひしと伝わる暑い夏の元気セミナーでした。

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