2011年11月28日月曜日

日本未病システム学会学術総会名古屋 【No,25】

 恒例の日本未病システム学会学術総会が去る11月19〜20日名古屋の今池ガスビルで開催されました。第18回の学会長は愛知淑徳大学健康医療科学部の井口昭久教授で、会のテーマは『長寿と未病』でした。HPのアドレスを書いておきますので、興味のある方は日程表を覗いてみてください。なかなか力のこもった学会でした。一般の方の興味深い所では、今話題のレズベラトールとサーチュイン(Sirt1)に関する東京大学大学院医学系加齢医学講座大内教授の「血管老化と長寿遺伝子Sirt1—動脈硬化未病における意義」の基礎医学的な発表と東邦ガス診療所林博史先生による「生命(いのち)を刻む体内時計〜健康と長寿の秘訣」でしょうか。また、聞き慣れない言葉かもしれませんがこれからの長寿社会では重要なキーワードとなるであろうサルコペニアならびにロコモティブシンドロ−ムに注目してください。一度ご自身でウェブ検索してみてください。

http://www.macc.jp/jmsa18/18mibyou_program.pdf

 今回弊社からは私の1題を含めて計3題を一般演題のポスターセッションで発表してきました。その内容は、メタボリックシンドロームのセクションで2題:L2-2 本社検査 角野正拓君の「腹囲正常群におけるアディポネクチン値の評価と自己管理指導への適用」ならびにL2-4 本社検査部長 竹内秀史君の「LH比とHOMA-Rの異常群における関連項目の変動」そして私の未病診断のセクションおける「自覚症状から未病を測る—体内活力指数および酸化ストレス度の有用性」です。長くなりますが私の発表のプロシーディング(後抄録)を掲載しておきます。お蔭様でこのセクションでの優秀発表賞をいただきました。

 私が以前に担当した学術総会は第12回で、まだ大阪府立母子保健総合医療センター企画調査部長時代の6年前(平成18年1月)になります。場所は大阪KKRホテルでテーマは少し長いのですが「伝統に根ざすスローライフを今に活かし、明日を拓く未病 —時の流れ、心、次世代をキーワードとして—」でした。周産期からの未病そしてNarrative Based Medicine 日本の伝統的生活を懐古的ではなくどう今に活かすかを学会のコンセプトにしてみました。このため、二日目は学会長講演に引き続きKKRホテル6階にある清芳庵のお茶室で学会長自らのお点前(武者小路千家官休庵、芳野宗匠立ち会い 斎藤万千子先生指導)で、見下ろすのは大阪城の冬枯れの庭ではありましたが、絶好のシチュエーションのもと、学会参加者に一期一会のおもてなしを行いました。

 

 

 では今回の私の後抄録を掲載しておきます。来年半ば頃に日本未病システム学会誌に掲載される予定です。(後抄録は日本未病システム学会に帰属します)

自覚症状に関与する栄養素から未病を計る
 -「体内活力指数」及び「酸化活性度」の有用性-
【目的】自覚症状の設問から体内で起こっている各種栄養素の活性不足を論理的に解析し、それらから算出される疾病傾向潜在率、疲労度、栄養活性度、栄養充、肥満度の各分析値に基づいた体内活力指数を最重要ファクターとして未病状態を診断するのが「HQCチェック」です。未病の学会定義にも未病そのものに経時的段階があることは既に語られていることですが、このHQCチェックは疾病の自覚症状を調べる方法ではないだけに、既病のバイオマーカーではなく未病状態を反映するバイオマーカーとの相関がエビデンスとして検討されなければなりません。しかしながら未病のバイオマーカーとして単一の項目は存在しません。われわれは今までに糖代謝異常のマーカーとしてインスリン抵抗性:HOMA-R(血糖×インスリン/405)を、そして脂質代謝異常のマーカーとして酸化ストレス指数:LDL/HDL/アディポネクチンを取り上げて発表してきました。今回は引き続 き、1.集団の経年変化。2.各種疾病傾向潜在率と「HQC酸化活性度」並びにHQCチェックの中でも最重要と考えている「体内活力指数」の2項目との関連。3.循環器系への負荷指標としてのBNPと疾病傾向潜在率、体内活力指数との関係をみてみました。
【方法】医療関係企業の全職員を対象に実施される定期健康診査時にHQCチェックを併せて実施し、また通常の検査項目に加えて必要なバイオマーカー(アディポネクチン・BNP)を加えました。BNPは2010年度健診の新規項目です。採血は基本的には午前中空腹時で通常業務中の座位で行われています。一部昼食抜きの午後採血も含まれています。
今回は【HQC酸化活性度】を定義してみました。すなわち、体内での栄養活性度が高い状態であればストレス酸化(指数)はより有意に生体に関与すると考え、この活性度と疾病潜在率の関係を検討してみました。
 HQC酸化活性度=酸化ストレス指数×栄養活性度  酸化ストレス指数は上記
 脳性ナトリウム利尿ペプタイド(BNP)はCLEIA法で基準値は18.4pg/ml以下です。対象人数は2009年度157名、2010年度195名でした。
【結果】HQCチェックからは各人疾病潜在率の高い順から3傾向が選択されます。その中で、a)糖代謝負荷傾向、b)循環器系(心負荷)傾向、c)肝臓系(脂肪蓄積)傾向の3傾向を取り上げ、対照群中の出現頻度およびストレス酸化度ならびに体内活力指数との相関を検討しました。
1.2009年度→2010年度では、各々の疾病潜在率はa)29%→33%、b)37%→48%、c)10%→18%とそれぞれに上昇を示していました。新規に加わった対照群の年齢ならびに仕事量増加のストレスが一因かもしれません。
2.体内活力指数との相関傾向がみられたのは、2009年度ならびに2010年度ともにa)およびb)であり、それぞれに疾病傾向潜在率が高くなればなるほど体内活力指数の低下傾向がみられました。一方c)は当然のことながら疾病傾向潜在率が高くなれば酸化活性度も上昇していますが体内活力指数との相関は見られませんでした。この疾病傾向での未病状態ではカラ元気を表出する傾向があるのかもしれません。

 

 

3.BNP に関してはこの値が高いほど体内活力指数が下がる傾向がみられました。循環器系(心負荷)傾向との相関では2群に分かれる傾向がみられました。循環器系疾病潜在率が低くてBNP高値群は未病としての循環器系以外の要因を考慮しなければならないのでしょう。年齢、性別、喫煙それに治療(薬剤)による介入等が考えられる要因です。
 その一つとして特に女性においては、鉄欠乏性貧血の存在が血中BNP値に影響しており、安静臥位でない採血方法がむしろ未病としての貧血負荷状態を表しているとさえ考えられます。<.br>  また高血圧治療薬剤によってBNP値が変動する一例を経験しました。βブロッカー処方時には脈拍が50を超えることなく、階段昇降時に息切れを感じていましたが、ARBに変更することにより脈拍数は60を超え、運動負荷時の息切れは軽快しました。これに応じてBNP値はβブロッカー開始前置に低下しています。

 

 

【結論】 1.自覚症状からの未病診断においては、単一のバイオマーカーとの相関でエビデンスを得ることは困難と思われます。
2、工夫としては複数のバイオマーカーによるフォーミュラ(数式)創作が考えられます。
 a. 体内事象をよりクローズアップさせるために疾病関連バイオマーカーによるア ンプリフィケーション(例;酸化ストレス指数=LDL/HDL/アディポネクチン)
b.未病の段階で起こっていると思われる複数の体内事象のマーカーによるフォーミュラ(例 PreDxDiabetesRiskScore)
c.生活習慣等の環境要因あるいは自覚症状指数とのコラボレーションフォーミュラ(例:HQC酸化活性度、GesundheitsCheck Diabetes FindRisk) 3、「体内活力指数」は、各疾病潜在率が高くなるほど低下する傾向がみられました。
 また当然のことながら「HQC酸化活性度」は、特に肝臓系疾病潜在率と強く相関関係を認めました。以上より、自覚症状からの未病アプローチとして、「HQCチェック」の活用の方向性が明らかとなってきました。
4、BNPは心負荷の有用なマーカーと考えられていますが、年齢あるいは採血条件により変動(上昇)することが知られています。しかし逆に非安静時、座位採血により、日常生活での心負荷を増幅させ、特に40歳以上女性貧血での潜在的心負担を評価できる可能性があります。 

以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿