2018年1月11日木曜日

年頭所感   景色と意識   【No.74】

電車や車で移動していると、ふっと、場違いな意匠の建造物にめぐり合うことがあります。場違いと感じるだけにその場にはふさわしくなくダサイ場合もあるし、掃き溜めの鶴のように、すばらしい・こんな場所にもったいないと思う場合とがあります。いずれにしても、有意な人が、その思いを込めて創り上げた建造物ゆえに、その建造物は背景の中で周辺が消え浮き上がった印象で記憶に留められます。
妻は、壁の飾りや植木鉢の花が替わっても、気がつかないことが多い。そういうと、美容院で『今日はご主人気がつかれますよ』と言われた時でさえ、夫の私から何のコメントも無いことしばしば、人のことは言えないのですが、目に映っていることと、見える、ということは違うのだと妻を見ていると実感します。10歳も年下なのによくけ躓くのも、案外視力(脳の認識力)の差に起因するのかもしれません。ディスレキシア(読字)等の学習障碍も極端な場合は別として疾病というよりもスペクトラムとして捉えてみると理解しやすいかもしれない。つい医学は劣勢を障碍(疾病)としてのみ捉えがちではあるが、平均以上に優れた資質もあるわけで、そうしていわゆる「個性」が構築されているのでしょう。
 その視点で健診受診者を診ていれば、最大一日80名でも疲れはあまり感じられなくなります。とはいえ昨今西クリニックの受診単価は一時に比べると下がっているのかもしれません。受診者数の実感ほどには収支が面白くありません。また二次健診の受診者もやや減少傾向でしょうか、特殊検査を出す機会も少なくなっているようです(二次健診項目を選ぶのが医師の醍醐味でもあります)。母子医療センターから継続の女性外来患者も、おばあちゃんになり、各種合併症を併発してきて地元医療機関へ転医するケースや、90日処方の縛りから「もう来んでいいよ」と紹介状を書くケースなどが今後増えてきそうです。
 日本未病システム学会の理事を長らく務めていましたが、このごろの学会理事会は定年制度があって、一昨年名誉会員になりました。この制度は実質は別として老害防止策の表れ。しかし、今年第10回目を迎える未病システム学会近畿地方会は節目の会だということで、大会長のお鉢が回ってきて、いささか緊張感が心の隅にあります。アイデアはあるのですが実際に少ない資金でどこまでやれるのか、後継の医師もいるのでこれにて近畿地区の代表世話人を辞そうと考えているだけに中途半端は避けたい、良い記念大会を創ってみたいと、意気込み半分不安半分の年明けです。

 景色の中にものを見る。健診の中に人を診る。

さて昨年末から新年に架けて、2回目のインドネジア・バリに旅行しました。昨年秋のアグン山噴火は小康状態で、あまりその危険は感じられません。火山は島の東北にあり、予想外の風向きでない限りフライトは安全で、主な島内の観光地もほぼ安全に廻れるはずです。しかし今回のツアーはキャンセルが相次ぎ、催行されたものの我々夫婦二人のみの参加となってしまいました。関空からの添乗員1名と現地でドライバーとガイドの計5人、我々夫婦二人のフルムーン旅行の様になってしまいました(笑)。当初予定されていた18名用の大型バスではなく、ツアー車は少人数用のバンタイプになったお蔭で、ローカルな裏道を選んで時間短縮が図れ、しかもバリの街の雰囲気を車窓から充分味わう事が出来ました。相変わらずのバイクと車が混在して3車線を5列で走る空港近辺の大渋滞や、信号で停車の度にバイクが前方に密集し、道では対向車を上手く避けながらも両サイドから追い抜いて行くバイクは3人時には4人の家族が乗って居るのが当たり前。違法とはいえ12歳前後の少年少女もバイクに乗って居り、バリの生活では必要な移動手段として欠かせぬ乗り物で、バリの街の象徴的景色となっています。見事としか思えないドライブ技術ではありますが、ある意味では国際的な観光地を目指すのであれば住民の移動手段と観光客のアクセスとを分離しないと安全と快適さは担保されない限界がやがて来るでしょう。

この島にはいたるところに神への祈りが感じられ、善と悪の混在する世界を受け入れ、生きる事への感謝が日常生活に溢れている様に思います。三毛作の棚田、ケチャのリズム、ウブド王宮(サレン・アグン宮殿)でのバロンダンス、ティルタ・エンプル寺院では人々は聖なる泉に身を清め、タマンアユンの世界遺産で見た家族のお祈り。でも暇な時間に凧を揚げる日長一日店番で座り続けている主に男の生活等々。インド洋に沈む夕日にタナロット寺院のシルエットに見失いかけている命の儚さと大切さに敬虔な気持ちになった旅でした。
今回の目的の一つにはガルーダのお面を買う事でした。ギニャール県Sukawati, Kemenuhの木彫り店でハイビスカスの樹を彫った手頃なサイズのお面を買う事が出来ました。インドネシア料理、ナシゴレンが昼夕と続いていささか食傷気味になりましたが、まずはメモラブルな旅でした。

今年一年の平安な日々を祈念しています。

医公庵未翁 記



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