2016年4月22日金曜日

AWACS ( Aji-borne Warning and Control System ) 早期警戒管制器 -味が身を助ける-【No.63】

 ちょっと不埒なタイトルですが、飛行機(早期警戒管制機 Air-borne)の内容ではありません。

まず、九州熊本南阿蘇方面に発生した地震に関して、被災されたかたがたにお見舞い申し上げます。
カミサンの実家は熊本県菊池市です。幸い近い親戚には怪我人は無く、これとて大変なことではありますが姪の古民家の自宅が倒壊し、自動車の中でしばらく寝ていた様です。エコノミークラス症候群(下肢静脈源性肺動脈塞栓症)の危険性が高いので要注意です。私の関係する企業グループの阿蘇ファームランドが布田川断層の北端に位置しているようで、無事とは聞いているものの、熊本市内・飛行場から直接のアクセスロードである国道57号線が325号線を分岐する辺り、阿蘇大橋、のところで山崩れがあり、また俵山トンネル崩落でメインアクセス道路が遮断されていますので宿泊施設等の営業活動が当面中止になっているようです。ファームランドのすぐ南に東海大学農学部学舎があり、寮の倒壊で複数の学生が犠牲者になっています。ご冥福を祈ります。
 フォッサマグナから中央構造線そして別府・島原地溝帯へと続く日本列島の足下の構造線は、日本社会の如く、ひずみにひずみが蓄積して何時その矯正活動が現れるかもしれません。そしてひずみがまた新たな力関係を作り出して、思わぬところにそのエネルギーを表出してくることでしょう。人の手で平坦に均されて、多くの地形があいまいになっていくのが通常ですが、地形・地勢図に目を凝らすと意外に過去の地殻の動きを読み取ることが出来ます。TV番組の「ブラタモリ」はその点で非常に面白い番組で、高校時代地歴部の小生はいつも録画設定して観て居ます。つい先日に放映されていたのが水の都熊本(2回シリーズ)でした。そこで放映されていた熊本城のかなりの部分が今回の熊本地震で倒壊し、さて水の国肥後の水系にも変化が現れるのでしょうか。清い水が出続ける熊本であってほしい。

 さて、私事ながらこの1週間は珍しく連日外食でした。結構美味しいものを食べましたが、なんとなく和食に落ち着きを感じる歳になっています。福寿を楽しむ会宴席にも参加して10種類のお酒を頂き、程よく美味に自己主張するお料理を楽しみました。しかし昨今、悔しいかな舌先そして鼻先の劣化を自覚せざるをえません。そういえば耳も目も徐々にではありますが、う~ん、聴診器は心音・呼吸音の領域ではちゃんと聞こえていますので受診者の皆様ご安心ください。健診での聴力検査は良好な基準範囲にあります。運転免許更新で視界は良好でした。しかし粋がっても歳は争えません。
 日経サイエンス(2016 05 72-78)で興味ある医学記事を読みましたのでご紹介します。
劣化して来ていると先ほど嘆きましたが、味は五感の一つであり、食べる事が特に好きな方にとっては人生の中でも最重要な感覚でしょう。味覚現在は甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つが受容体を介して膜電位の活性化を引き起こしていると考えられており、生理学的にはこの5つが五基本味と位置づけられています。そして味を感じる組織(受容体)を味蕾と言うのはよく存知ですね。舌に多く存在する味蕾は味覚受容体細胞と支持細胞から構成されており、化学的受容体は味覚受容体細胞の先端(味蕾の味孔と呼ばれる開口部から突出している部分)に分布しています。受容体から発せられる信号は舌の前2/3に分布する味覚は顔面神経(鼓索神経)、舌の後ろ3分の1に分布する味覚は舌咽神経を介して、喉頭あるいは食道部の味覚は迷走神経を介して延髄に連絡し脳内に運ばれていきます。また舌触りなど化学的受容体を介さない味覚刺激は三叉神経を介して絶妙な味の感覚を我々に伝えてくれる仕組みです。
 しかし最近研究の結果この味覚受容体は口腔内のみならず他の臓器、特に苦み受容体は近くの臓器では気道すなわち鼻・副鼻腔から肺と気管支、心臓、腸さらにペニス先端の尿道にまで全身に存在している事が分かって来ました。他の臓器で味を確かめる目的は考えられませんから、「苦み」すなわちある種の身体にとって不利益な化学物質の検知機能を有して身体を守っているのではないかと考えられる様になっているのだそうです。自然免疫を担う重要な仕掛けの一つでもある様です。鼻にある苦み受容体の研究では、受容体から発せられるシグナルは他の細胞に伝達され、繊毛の運動を促し(物理的排除機構)、殺菌作用を有する一酸化窒素の放出(これは血管拡張作用も有するので、局所の血流が増加するかもしれません)そして「ディフェンシン」と言う抗菌蛋白質の合成・分泌を促進する作用が在ると言うのです。
 ラットの鼻では更に孤立化学感覚細胞と呼ばれる苦み受容体と甘み受容体の両方を持つ細胞が見つかっています。甘み受容体はフィードバックをかける仕組みではないかと考えられています。
余談ですが、個人的にはペニス先端の尿道にある受容体の働きの解明が待たれます。

 苦みを持った物質は植物アルカロイド等毒性を持った化学物質である事が多く、味見のときは良く舌先でちょこっと未知の物質を舐めてみる行為を良くやりますよね。苦身を感じた時はゲヘッという顔つきが条件反射で引き起こされ、ぶっと吐き出してしまうでしょう。甘み、塩味、酸味、うま味を感じる受容体はそれぞれ1種類しか無いそうですが、苦みを感じる受容体は少なくとも25種類はあるそうで、いかに多くの化学物質に対応できるように苦み受容体は進化して来たかが分かります。上気道や口腔は有害物質の早期侵入口です。早期警戒管制システムを完備しておかないと我々の命は危なくなります。
 医学部学生の遺伝学の最初の授業でフェニールチオカルバミド(PTC)の味覚テストが在った様に記憶しています。私は苦みが鈍かった遺伝形質だった様に思います。苦みの鈍い人は感染し易さに繫がる可能性があるのだそうです。幸い今までに感染症に煩わされた事は私にはありませんが、慢性副鼻腔炎患者の遺伝的背景が昔からいわれており、これら新しい知見から 味→苦み受容体→易感染性素因→苦み受容体刺激剤→免疫力アップ の治療戦略も想定され、病気の素因(体質・個性)そして治療のストラテジーへと発展していく可能性がある様に思います。

 今日の食事は、ひと味ひと味よく味わって、我々の身体の不思議、早期警戒管制システムのありがたさを噛み締めてみてください。  Bon Appetit!  ごきげんよう     

医公庵未翁 記



      




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